砧公園の歴史

砧公園のもととなる砧大緑地は、昭和15年、東京府が計画した6箇所の大緑地のひとつとして誕生しました。当時の東京は、大震災の復興事業もおわった昭和初期から人口の増加、マンモス都市化現象がおこりはじめ、都市環境は悪化しつつありました。

そして都民(当時は府民)の、いまでいうレクリエーションへの要求が高くなり、これに対応するために、総合的な緑地計画が必要になってきたのです。それは総合的、本格的な緑地計画として日本最初のものでした。

歴史と文化の散歩道しかし、この緑地計画がすすめられている間に、日華事変が拡大しはじめ、国家防衛がいそぎ必要になっていました。そして昭和13年、緑地に防空的機能をもたせるよう示されたのです。これを機に、「防火緑地」や「軍事緑地」という言葉がつかわれるようになり、有事のさいには防空的役割もはたす大緑地をつくることを決定しました。

そして、当時の情勢から、平和時、戦争時、すぐに対応できるように、砧大緑地にも野外訓練場としての機能をもたせ、有事には防空中枢部、平和時には慰楽休養(レクリエーション)としてもちいることができるようにしました。

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昭和16年になると、用地買収と同時に学徒動員によって整地をはじめ、その後、 昭和17年には砧公園の整地が完了。さらにその翌年からは軍事訓練場、滑空訓練場、戦技術訓練場などの建設をはじめました。

戦争の長期化により、食料事情にも影響をおよぼし、イモ類、マメ類、雑穀、そばなども作られるようになります。戦争がはげしくなると食糧の増産に協力し、戦争が終わってからは戦災の復興に役立てるため苗木の生産をしたのです。

そして昭和19年になると戦局は緊迫し、砧緑地にも防空壕がつくられました。当時は、鉄カブトに防空服姿の人々が用賀方面から砧緑地へ避難してくるようになったり、また、ある時などは、B29が超低空飛行でとんできて、1500発近い焼夷弾を投下していったこともあるそうです。

ちなみに当時、砧緑地では麦やイモを作っており、それらは上野動物園の動物飼料としても用いられました。当時は、人間でも食べることがむずかしい時代でしたので「国民でも栄養失調で倒れる人がいるのに、動物のエサどころではないだろう!」と警察に取り調べをうけたり、没収されてしまうこともあったそうです。上野動物園と砧公園とは、こんなところでつながりがあるんですね。

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戦中はもっぱら食糧生産と野外訓練にもちいられていた砧緑地ですが、昭和20年に戦争がおわってみると、そこには広大な草地と農場がのこされていました。それからは、失業対策事業によって、整地などをおこない、昭和24年には野球場とキャンプ場が新設されました。当時の野球場というのはとても珍しかったそうです。

同時に、当時の公園職員は、『公園マン』としての職業意識に燃え「この砧緑地を廃墟の中に立ち上がっている都民にうるおいをあたえる場にしよう」と、一丸となって整備にとりくみはじめました。彼らは、建設設備する予算などまったくないにもかかわらず、移動動物園、樹木園、生産緑地の構想など、都民の誘致をはかろうと情熱をかたむけたのです。

そのころの砧緑地内ではヤギや乳牛を飼育していたので、大草地に放牧し、その中でピクニックができるようにして、牛乳やヤギの乳をしぼって来場者に提供したりもしたそうです。戦後の混乱もすこしずつ復興の方向にむかいはじめ、人々の間にレクリエーションの要求が芽生えはじめてきました。

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レクリエーションへの欲求が高まるにつれ、東京都は、砧緑地をレクリエーション用に提供しようと計画をすすめ、昭和30年、『東京都砧ゴルフ場』として公用をはじめました。当時は、都立のゴルフ場ということで使用料も安く、会員制ではなく、公開制だったのでかなり好評だったようです。ちなみに当時の使用料はコース1日一人300円。混合練習場1日一人120円、ドライバ練習場 ボール2ダース80円でした。

そして昭和41年、公営のパブリックコースがひとつくらいあってもよいのではないかという声があったものの「より多くの都民の、レクリエーションの欲求にこたえるのが緑地本来の姿である」という意見が大勢を占め、砧ゴルフ場を廃止しました。その後、ゴルフ場跡地は、『砧ファミリーパーク』として開園をしました。

当時の東京は広い芝生で自由にあそべる広場がなかったので、開園と同時に都民がどっとおしかけ、あの広い芝生もいっぱいになったそうです。その後、現在のファミリーパークとして1998年に整備が完了するまで33年間もの年月が経過しました。

砧公園がいまの姿になるまでには、将来をみすえた都市計画や、悲しい戦争、そしてなにより、砧公園を愛する多くの方々の努力があったんですね。

※参考図書 「砧公園」 石内展行・板垣修悦 著


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